買収した会社の企業再生に取り組んで2週間が経った。
この1週間での成果としては、とある取引先の値上げ交渉に成功した。これで年間450万円ほどの利益を確保したことになる。
私が会社に入って最初に感じたのは、良い物を提供しているのに安く仕事を請け負いすぎているという事だった。今まで全く交渉をしてこなかった為、元請けが提示した金額そのままで受けてしまっていた。「これでは安すぎる」と感じても、金額で渋ってしまうと他社に仕事を回されてしまうのではないかという不安が根底にあったからだろう。
一つの基準として、儲かっている会社は名目労働生産性(1時間当たりの労働生産性)が5,000円を超えているというのがある。公益社団法人日本生産性本部のデータでは、2019年度の日本の名目労働生産性は4,927円だった。
つまり4,927円を下回っているビジネスは非常に厳しいと言える。
今回値上げに成功した仕事の名目労働生産性は3,500円だった。これを25%値上げして4,375円にして欲しいと要望を出し、それが通ったという事だ。これでもまだ平均を下回っているが、最初の値上げとしては上々だろう。
値上げというものは、交渉が上手くいかず、一切値上げされなかったとしても、1円も損をしない。しかし、交渉が成功すれば一瞬で数百万円の利益に繋がることがある。
要するに値上げはノーリスクハイリターンと言える。
元々当社は毎年500万円程度の赤字だった。今回値上げを成功させたことで、赤字はほぼ脱却できたと言っていいだろう。
中小企業の経営に携わっている者なら、年間450万円の利益を出すことがどれだけ大変なのか知っているだろう。
だからこそ、もし今経営が厳しいと感じているなら値上げ交渉に踏み切ってみてほしい。
「うちには強みがないから値上げなんて無理だ」
「値上げ交渉をするほどのスキルはない」
そのように思っている方も、この後紹介する方法で値上げにチャレンジしてはいかがだろうか。
たった4つのステップをやるだけで、会社の経営が劇的に変化するかもしれない。
1.値上げ交渉成功のための4つのステップ
ビジネスの場では値上げ交渉は度々発生する。圧倒的な立ち位置を誇っていれば相手は要求を呑むしかないため、さほど難しいことではない。しかし、下請けが元請けに値上げ交渉するとなると、最初は非常に勇気がいるだろう。そして、しっかり用意してから臨まないと交渉はなかなか成功しない。
今回買収した企業に古くからいる社員は値上げなんて出来ないと思っていたそうだ。むしろ値上げと言っただけで契約を切られると思っていたらしいが、実際はそんなことはない。
私が最初に入社した会社は、社員数が3000人の上場企業で下請けも数百社いた。ずっと元請けの立場で仕事をしていた人間の視点からすると、作業に慣れた優良な下請けがいなくなる方が困るし、値上げして欲しいと言われたときは素直に検討してあげたいと考えていた。
私が新人の時、教育担当に「下請けを儲けさせることも元請けの仕事だ」と教えられたからだ。
では、どのように頼んできたら相手は値上げの要求を呑もうと思うのだろうか。
元請けの視点とこれまでの私の経験を踏まえて紹介していこう。
1-1.徹底的に競合・市場の調査を行う
値上げ交渉をしようと決意した時、まずやることは自社の立ち位置を冷静に把握することだ。
・競合はどのくらいいるのか
・市場としてどのくらい需要があり、需要と供給のバランスはどうなのか
これらを知らなければ、自社を客観的な視点で見ることが出来ない為、きちんと調べる必要がある。
今回私がやったのは、競合となる企業すべてに偵察に行き、どのような設備が整っているのか、会社は整理されているのかを確認し、自社のレベルを知った。
また、県外の同業他社に相見積もりを頼み、自社が出している金額は高いのか安いのか判断した。
当社では検品作業を1つ当たり5円で行っていた。他社は安いところで7.5円、2番目に安いところで11円、1番高いところで35円だった。
つまり7.5円まで値上げしても最低価格である可能性が高いということが分かる。
逆にもし既に11円で出していて、7.5円でやる会社が現れたら仕事を奪われかねないというのも知ることができた。
1-2.元請けの利益額(業況)を確認する
現在元請けとなっている企業が、大企業で上場しているなら決算書を読み込んで利益を確認していく。これでおおよそどのくらい儲かっているのか知ることが出来る。
元請けが中小企業で具体的な売上高等が分からない時は、必要に応じて帝国データバンクで調査してもらったり、情報を購入することも出来るので、その辺りを活用するのもいいだろう。
ちなみに私はよく原価計算をして、利益額の予想をしている。
例えば、メーカーなら原材料はいくらで、ボトルはいくらで、パッケージはいくらなのかを調査する。ボトルも年間1,000本程度なら値引きはほとんど無いかもしれないが、10万本程度売れていたら、かなり値引きがあることが予想される。
容器会社などに協力してもらい、1,000本、1万本、10万本の概算金額を出してもらって値段をチェックする。
そこから原価と定価を予想・調査し、その間に商社がどの程度入っているかでおおよその利益をイメージすることが出来る。
このイメージから逆算して、どのくらい値上げを要求することが可能なのか判断する。
1-3.値上げを断れない理由を作る
ただ闇雲に「値上げしてください」とお願いしても、ほとんど値上げに応じてくれないだろう。
値上げ交渉を成功させるコツとしては、値上げの話が上がった段階で、応じなければ自社に不利益だと思ってもらう必要がある。
先日ある自動車関係の経営者の方と話をした。取引している楽天の車検から、値上げの交渉をされたらしい。結果としては楽天の言い値で決まってしまったそうだ。
彼は何故応じるしかなかったのか。それは楽天が毎年車検を1000台紹介してくれるからだ。
年間3000台の車検のうち1000台は楽天に頼っているという依存度の高さで、値上げを断ることができなかった。
これは強者のやり方だが、実は中小企業でも同じような環境を作ることが可能だ。
今回の当社のケースで言えば、他社はおそらく7.5円~11円という金額でやっているが、その中で当社は5円という圧倒的に安い金額でやっていた。そして10年間一度もクレームを出していないクオリティの高さを武器に戦えば、値上げ交渉は難しいことではない。
ここで値上げ交渉した際、担当者が何を考えるのかイメージする。
例えば当社が元請けに7.5円に値上げしてほしいと頼んだとする。
元請けの担当者としては、同業他社と同じ金額で頼まれたことになる。他社と天秤に掛けたとしても、高いクオリティで提供できている当社に軍配は上がる。ここで他社に変えたところで元請けにはリスクしかないからだ。
むしろ強気に11円と言っても要求が通る可能性がある。もし他社がこれより安くやってくれたとしても、ここで会社を変えてクオリティが下がれば、納品先のお客様からクレームがくるかもしれない。その手間や信頼を考えたら11円でも安いと考えても不思議ではない。
交渉に成功するイメージが明確に出来た為、私は元請けの担当者に25%の値上げを申し込んだ。
その場では「上司と相談します」という返事だったが、翌日には値上げの承認が通ったという連絡をもらうことが出来た。
1-4.多少は引くことも大切
事前準備を全て行い値上げ交渉に臨んでも、相手が折れないことがある。どうしても譲れない条件でなければ、こちらが折れることも大切だ。
もし途中まで交渉が上手くいっているなら、妥協するのも一つの手段だ。少しでもプラスになったならそれで良しと考えるべきである。
但し、なぜ相手がその目標とする金額まで値上げに応じなかったのか、徹底的に考えることは必要だ。
もしかしたら、相手も利益ギリギリでやっているのかもしれない。
もし、相手に値上げの余地があり、自社に値上げ交渉出来る材料や強み、値上げに値する仕事をしている自信があるなら、1年後にチャレンジしてもいいだろう。
今回当社も値上げに成功したが、途中で一度引いている。
値上げについては概ね了承を得ていたが、現在3名の社員を4名にするという条件を提示されたからだ。こちらとしては即時値上げを狙っていたが、これ以上攻めると上手くいきつつある交渉にも影響を及ぼすと考えて、一旦引いた。
その後、人員を一人確保したため、無事に値上げを成功させることが出来た。
2.常に値上げ交渉すると値引きされない
普段から値上げ交渉をしていると、不思議なことに値下げ交渉されることがほとんどない。担当者も値上げ交渉されているのに値下げのお願いするわけにはいかないという心理が働くからだろう。
但し、稀に値上げ交渉をしている最中に、値下げ交渉をされることがある。それは、御社よりも良い会社があるから、値上げするくらいなら今後仕事を回さないというサインだと思った方がいいだろう。こうなったら素直に引いて、値上げを断れない環境や実力、クオリティを追究するべきだ。そしてそれが揃ってから、再度値上げ交渉に臨むのがベストな選択だ。
どちらにしても、攻めることは最大な防御。適時値上げ依頼をすることは、自社を守ることにもなる。
3.値上げしても気持ちよく払ってもらえる技術力をつける
値上げを要求する際に大切なのは、相手に気持ちよく値上げを了承させる事である。
「御社はこれだけ貢献してくれているし、出来るなら値上げしてあげたい」と思ってくれている担当者も実は結構いるものだ。しかし担当者は上司から指示もされていないのに、勝手に「値上げしてあげます」などと言うことはできない。
だからこそ日頃から担当者に「値上げしてあげたい」と思わせていれば、いざ値上げ交渉した時に快く応じてくれるし、このような関係が築けていれば、何かトラブルが発生しても大きな問題に発展することはない。
もしこれが仕方なく値上げした場合だと、仕事量を減らされたり、トラブルが発生した際に大問題に発展するなど、今後の関係に影響を及ぼす可能性がある。
そうならない為にも、値上げした金額に見合うだけの仕事をしている事が大切だ。
4.対外的に凄いと思われる会社になる
紹介以外で新規取引先を選ぶ際、大手企業の担当者はどこを見ているか知っているだろうか。
実はかなりの確率でホームページを確認している。ホームページがない会社だと、信用出来る会社か判断する材料が足りない為、取引すらしないというケースも少なくはない。
そうなるとホームページの制作や維持は重要だと言える。ホームページのクオリティを上げ、しっかりとした会社だとアピールすることで担当者に印象を残すことが出来る。更に自社の強みを知ってもらえば、レベルの高い高単価商品の依頼にも繋がるだろう。
ホームページを作ることは、低コストで高リターンが望める投資だ。
当社は、大手から中小零細企業まで、様々なWEB制作を行ってきた。
これまでホームページが無かった会社や作ってから放置してきた会社の場合、ホームページを作って、ブランディングやコンテンツマーケティングを徹底してやったことで、売り上げを大幅に伸ばすことが出来た。ちなみに当社が請け負った会社では、平均3.4倍売り上げをアップさせている。
いくら技術力を磨いていても、それに気づいて貰えなければ意味がない。
技術を磨いて自社の価値を高め、それをしっかりアピールすることで初めて仕事に繋がり、利益が生まれる。そこでようやく値上げ交渉し、更に利益を増やすことになる。
そのためにも日頃から配信していくことは大切だ。
5.まとめ
今回、中小企業が値上げ交渉を成功させるためのテクニックを紹介してきた。
本格的に値上げ交渉に向けた準備に入る前に行ってほしいことは以下の2つだ。
・値上げしても気持ちよく払ってもらえる技術力をつける
・対外的に凄いと思われる会社になる
この2つを行うことで自社の価値が高まり、値上げ交渉をしても相手が快く応じられる環境を作り上げることが出来る。
そしてそれが整ったら、以下の4つのステップで値上げ交渉をする。
値上げ交渉成功のための4つのステップ
- 徹底的に競合・市場の調査を行う
- 元請けの利益額(業況)を確認する
- 値上げを断れない理由を作る
- 多少は引くことも大切
値上げ交渉をする上で大事なのは自社の立ち位置を冷静に把握すること。
自社の価値を安く見ている中小企業の場合、「どうせうちみたいな小さい会社が値上げ交渉なんてしても…」と考えて、交渉すらしないケースが多々ある。
逆に高く見積もりすぎていると、無謀な値上げ交渉になり、成功することはないだろう。
そうならない為にも、客観的に自社を見て、会社の価値を知り、正しい値上げ交渉をしなければならない。
相手の言い値で安く仕事を受けるのはもう終わりにしよう。
高い金額で仕事を受けることで利益が増えれば、社員たちの給料も上げることが出来る。そうすれば必然と良い人材が集まり、更に自社の価値を高められる。
その第一歩として値上げ交渉にチャレンジし、是非成果を上げてほしい。
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